保険診療の弊害や歯科大学の定員数の多さ…歯科医を巡る環境の悪化ばかりが世間で広がっています。ですが、歯科医院の経営を支えるのは、歯科医だけではありません。クリニックに常勤するスタッフ以外に外注される「患者の義歯」製作は、歯科技工士という国家資格保持者の仕事です。この仕事について述べてみます。
歯科技工士の大部分は「開業者」です。むろん、官庁や大学病院に勤務する人たちもいるにはいますが、そのほとんどは教官として勤めており、指導者として普段歯を作るわけではありません。3年制の専門学校や大学歯学部での補綴診療は技工士が実際にその技を学ぶ唯一の機会であって、その他は実際に会社組織としてやっている事務所や歯科医院で「丁稚奉公」をしなければなりません。
離職率80%、とは非常に厳しい世界だなあ、と感じられるでしょう。確かに、歯科に関係する職業で景気の良い業界はまずありません。ほんの一握りの一般歯科医と審美歯科医が数千万円から億単位の年収を受け取っているのですが、90%以上は1,000万円以下、それも300万円以下の歯科医が増加傾向にあるのです。
これは何を意味するのでしょうか?義歯を作る場合、1本あたり8,000円の請求額が正当だ…と歯科技工士が考えていたとしましょう。実際に歯科医から支払われる明細はその4分の1、2,000円というのが相場です。そしてこれはここ30年来変わっていません。将来性がある仕事、といえるでしょうか?20代の人が長く続けていけるでしょうか?今の20代、30代はバブルの時期を知らないで育っていますので、言ってみれば「不況」が当たり前として経験しています。だからこそ、せっかく授業料を支払って国家資格を取ったにもかかわらず、そのほとんどは離職し、復職することはありません。逆に言えば、残った20%がこの世界で生き残っている、ということなのです。
歯科医は歯を診る仕事ですが、彼らもまた歯を作る技術を持っています。例えばアマルガムによる詰め物は現在も保険適用になっており、二次カリエスの問題はありますが、歯科医が実際に手わざとして簡易に行えることから、利用率が高くなっています。
ただ、アマルガムそのものの有害性は、10年20年と徐々に進行する有害な鉛を含んでいることから、最終的には抜歯しなければならない可能性を含んでいます。こうしたことから、抜歯する人が義歯を必要とすることになり、結局歯科技工士の仕事が確実のあったわけです。つまり、歯の治療方法によって、技工士の需要があったことになります。ですが、現在はコンポジットレジンが主流で、それも噛み合わせは歯科医の技で細かく削るなどの方法で出来上がります。患者からすれば、白さと自然さはレジンにはかないません。ですから、コンポジットレジンによって、技工士の仕事はかなり奪われてしまったといってもよいのです。
ここまで来れば、歯科技工士の技術が何を求められるのか、お分かりになるのではないでしょうか?つまり、歯科医や歯科衛生士が考える以上の「患者の歯への欲求」を、歯科医や衛生士以上に叶える「最高の作品」として作る技術、そのものなのです。それは患者の持っている生まれつきの歯ではなく、患者の顎や顔全体の美しさを際立たせるための新たな「歯」でなければならないのです。つまり、一般歯科から仕事を貰うにしても、一流の歯科医から仕事を受けなければ意味がないですし、食べていくことはできないのです。
モリタ歯科技工 「歯科技工登竜門テクニカルコンテスト」、和田精密歯研株式会社 「歯科技工G1グランプリ」、第4回国際歯科技工学術大会・第30回日本歯科技工学会学術大会 「テクニカルコンテスト」…義歯から顎、骨格に至るまでの精密で確かな作品を作る腕を競う大会は、毎年必ずといっていいほど決まったラボから入賞者を出しています。なぜ、そうなるのか、それは材質研究にあるといってもよいでしょう。
ポーセレンは決して安い材質ではない、と考える歯科医院にとっては、他の材質で同様の質感を出さなければなりません。むろん、費用対効果を考えれば自由診療の審美歯科であったとしても、良い腕で早い出来上がり、そして型取りの正確さやスムーズさが肝心です。ですから、求人内容はやはり仕事の出来不出来でしかないこと、そして患者さんに実際に付き添うことがあるわけですから、歯科医や歯科技工士との控えめなプロ意識を発揮させて、信頼される歯科医院のバックアップができる技工士であること、これが大事なのです。
経済的に苦しい時もありますが、言ってみれば「芸術家」の領域なのが歯科技工士です。だからこそ、素晴らしい歯を長く保てる作品として、世界にたったひとつのものを生み出せるのです。絶対にぶれない意志で頑張っていきましょう!