幹細胞による歯の再生の可能性が現実に。従来の技術だけで対応する歯科医師は淘汰される?
インプラントによる歯の再生技術が一般化しています。正確にはデンタルインプラントによる人工歯根によって、失われた白い美しい歯を取り戻す技術を、世間では「インプラント」と総称しています。そして、その治療はほとんどが審美歯科といわれる自由診療の専門歯科か、一般歯科でインプラントも手がける混合診療歯科で行われています。診療報酬制度で歯科医療加点が下がっていく現状、インプラントへの「参入組」は多いのですが、その問題点を探ります。
2013年(平成25年)1月、福岡市博多の「シティデンタルクリニック」が倒産。福岡ではテレビ CMや新聞広告を盛んに流していた、医療法人樹啓会が運営していた4つの医院のひとつとして知られ、その立地も博多駅徒歩5分という最高の条件でした。ですが、倒産時の負債総額は7億円以上、その債権者の多くが「治療費を前払いした患者」ということで、大変な問題となりました。
インプラント治療で一躍有名になったこのクリニックは、一時は大変な収益を上げていたことで知られていました。ですが、インプラントを導入する同業者の増加とともに、その勢いは削がれ、経営面で躓いたとも言われていますが、影響はそれだけではありませんでした。そもそも、インプラントを行うにはCTが必要で、その金額は約1,000万円。そして様々な器機などの初期投資は数千万円に上ります。自由診療とはいいながら、同業者が増えてしまえばダンピングや前払いによる安売り合戦も当然出てしまう、という弊害があぶり出されてしまったのです。
確かに、先天的な「歯のない」状態に「歯を入れる」技術であり、虫歯や歯槽膿漏による歯の欠損を取り戻すために、インプラントは大変有効な技術のひとつといえます。ですが、そこにはチタンという金属の是非が問われる、という問題が横たわっています。
義歯、ブリッジ、インプラントの3つは、歯を欠損した場合に有効な方法ですが、インプラントの場合はチタン、もしくはチタン合金によるインプラントを埋め込み、白い美しい歯を「まとめて」手に入れることが喧伝されています。チタンを使うことは、骨との相性がよいことから始められましたが、問題点は「インプラントへの強引な勧誘」や「電磁波の影響の有無」があります。
歯科選びのポイントは何?と聞かれた場合、普通の人はどう答えるでしょうか。まずは「評判のいい歯科医院に行く」、そして「診療代金が高くないところ」と答えるのではないでしょうか。評判のよい歯医者かどうかは、実際に受診すればわかるというもの。ですが、インプラントの場合はどうでしょうか?実際にインプラントにしているかどうかをオープンにする人は多くはありません。人知れず歯を綺麗にする、という患者の心理的な側面を利用して、歯の矯正を勧め、インプラントへと導く…こうした歯科クリニックが多いことから、結果的に極少数の患者で「失敗例」が露見すれば、瞬く間にネット上に拡散してしまうことになってしまうのです。
また、電磁波障害を訴える患者のケースも見逃せません。もちろん、現段階ではインプラントに使われるチタンが、携帯電話やスマホ、あるいはアンテナからの電磁波に反応して、頭痛や吐き気、だるさなどの要因となっている、という証左は全くありません。ですが、インプラント技術が確立されずに治療行為に及び、その結果患者が頭痛を引き起こすことはあり得るのです。自由診療だから、許される…とまでは言いませんが、インプラント患者がここ数年伸び悩む理由は、やはりしっかりした技術が全ての歯科医にもたらされていないことがあるでしょう。
iPS細胞(人工多能性幹細胞)の応用により、医学会や生化学会では臨床実験が行われています。機能が失われた臓器や骨の一部に存在する幹細胞が臓器や骨、軟骨の再生を行うことが証明され、自己増殖されることが、歯の再生にも可能性を導いていることがわかってきました。
白血病患者の治療のため、骨髄移植という方法が知られています。これは造血幹細胞と呼ばれる幹細胞の再生技術を言います。これに対し、歯の場合は間葉系幹細胞と呼ばれる幹細胞を使い、失われた葉を取り戻す方法です。簡単に言えば、失われた歯が再び生えてくる状態する技術であり、それは時間の経過が必要であり、生えてくる歯がきれいなものかは全くわからない…などのリスクの生じると考えられています。
歯には再生可能な幹細胞が存在し、これを培養し移植することで成長させますが、これは今後間違いなくインプラント治療への大きな壁となってくるのはまちがいないでしょう。インプラント治療に現状を見ると、その費用対効果もさることながら、衛生面で問題が多く発生していることが懸念されます。インプラント治療を積極的に行う歯科医院勤務も、歯科医師の道として大事とは思いますが、やはり二次被害の少ない、それでいて自分の細胞を自分の体内で再生させる方法を選び、日々進歩する技術を取り入れていかなければ、この先単なる検診医としての立場で終わってしまうかもしれません。